物語
海辺を歩くのが好きだった。
白い砂浜、どんよりと青い海。
人の少ない時期を狙って海に行き、ザザーンザザーンと静かに寄せては返す波を眺めている。たまに砂浜を歩いて、不思議な漂流物を集めるのが楽しかった。
ある日、いつものように海辺に行くと、見知らぬ漂流物があった。紙の入った瓶。ボトルメールだ!と足繁く通った海で見つけた未知に、思わず心が躍った。
浮ついた心のまま家に瓶を持ち帰り、栓を開ける。瓶の中からカラカラと音がした。
拝啓
砂の上にいるきみ
いつも私の歌を聴いてくれている横顔を、とても恋しく思っています。
きみが砂の上を歩いて近づき遠ざかるたびに、私の心は嵐のように荒れて、泡のように乱れるのです。
この瓶に入れた真珠は、きみへの贈り物です。
人間はコレを自ら育てるくらいお気に入りなのでしょう?きみも気に入ってくれたらいいな。
この真珠は私の花嫁の印です。身につけて待っていてください。
必ず波がどこまでも迎えに行きますから。
深い青の底から
敬具
斜陽が海面を輝かせている。
波音のする部屋に、手紙が一枚落ちていた。